古谷徹
くやしいけど僕は一生ヒーローなんだな(1/20)
「ガンダムの操縦は君には無理だよ…くやしいけど、僕は男なんだな」
このセリフにピンときた読者は何人いるだろう。33歳の記者にとっては、古谷徹イコール「機動戦士ガンダム」のアムロ・レイ。その本人が劇中で最も気に入っているセリフを聞いたら、思いがけず“一声”かえってきた。
声の間合いと抑揚は、まさにアムロだ。ガンダム搭乗を拒否しブライト司令官に殴られ、「シャアを超えられるヤツだと思っていたが残念だよ」と吐き捨てられた末、幼なじみのフラウ・ボウにまでたしなめられたことで、いじける少年から“男”に目覚めたあの時のアムロだ!!
言っても(書いても)せんないことだが、それでもあえて言いたい。今回ばかりは、この衝撃と感動を、音ではなく活字でしか伝えられないことが心から残念だ。ガンダム世代より上の方々にはピンとこないかもしれないが、ならばこのセリフはどうだろう。
「オレはいま、猛烈に感動している!」
言わずと知れた「巨人の星」の星飛雄馬である。1968年、中学3年で声優デビュー。児童劇団の子役からトップ声優へと大きく舵を切るきっかけとなったあの名作で、やはり最も印象深いセリフがこれだという。
「いま振り返っても、アムロを演じた『25歳の古谷徹』って本当にすごい。当時は声優としてテクニックがなかったから、セリフの語尾が流れて聞き取りにくいことも多かったのですが、その未熟さこそがアムロ・レイだったんですよね。ハートだけで演じることができたあのころの感性は決して再現できないし、絶対にマネできない。永遠に超えられないライバルであり、目標でもあります」
いまや声優界の大御所が「絶対に勝てない」と言い切る、数十年前の自分自身。
なるほど、アムロや飛雄馬、そして「聖闘士星矢」の星矢や「ドラゴンボール」のヤムチャなど往年のアニメヒーローが数十年たったいまも鮮烈に生き続けるのは、キャラクターと一体化したその時々の古谷徹の“あの声”があったからだ。
だがそれは、生涯現役にこだわる古谷徹にとってジレンマでもあるという。
「オーディションを受けたくてもなかなか呼んでもらえないんですよ。『古谷徹』の芝居や声を決めつけられてしまっているから。あまりにもたくさんの代表作やヒット作があることで、逆に新鮮さがないのでしょう。若手の台頭も著しいし、クリエーター側も若い世代に変わっていますから、僕みたいなベテランにはダメ出ししにくい部分もありますしね」
「どの業種でも、プロ意識を持ち続けるベテランの方なら思いは同じじゃないかな。僕自身は『みんなが知っている過去の古谷徹とはまったく違った芝居をするよ、違った声を出すよ』と強くこだわっているからこそ、オーディションというチャンスが欲しいんですが…」
【リメーク版「キャシャーン」悲しく、色っぽく】
そんな“逆境”のなか、若手に混じって受けたオーディションを勝ち抜き、往年の名作のリメークへの出演が決まった。「新造人間キャシャーン」の主人公役だ。
「キャシャーンは歴代、名声優の方々が演じてきましたが、今回のキャシャーンのキャラクターは見事なまでに強く、悲しく、美しく、色っぽい。いままで演じてきた数々のキャラと違って感情をストレートに出さず、つねに抑えて抑えて演じています。そうすることで独特の色気が出るのかなと。自分にとってもチャレンジですよ」
やはり、この人には現場がよく似合う。古谷徹は永遠に「声優・古谷徹」であり、アムロや飛雄馬はファンの心の中でのみ永遠に生き続ける存在なのだ。
「僕には定年がないし、ここまできたからには一生ヒーローを演じ続けますよ。とはいえチャンスは少ない。仕事はいつもラストチャンスのつもりです。いままで培ってきた技や感性のすべてをつぎ込み、まったく新しいキャラを演じてみせますよ」